新 白川夜話

10.随想 被虐の鉄火花

 会員サイトで突然始まった女侠客もの。ようやく連載3話まで進んだところだが、なかなかご好評を頂いているようである。やはり皆さ ん、この手のお話って好きなのね。

 いつか手がけようと考えていたテーマだが、正直言ってこんなに早く手をつけるとは自分でも思っていなかった。きっかけになったのは実 はSMマニア4月号から連載されている鬼六さんそっくりの女侠客小説である。笠間しろう氏の挿絵はなかなか良いのだ が、文章ははっきり言ってなんだこりゃ という感じである。

 ただ自分でもこのジャンルに対する飢餓感があったせいかそれなりに面白く読めた(ちなみに7月号で完結のようである)。それに加えて、これなら自分の方 が面白いものが書けるのではないかと、例によって不遜なことを考えたのだ。

 ちなみに、長い間白川のサイトにおつきあいいただいている方なら既におわかりかも知れないが、白川は結構傲慢不遜な自信家である。そ のせいでこれまでの人生得なこともあれば、損をすることもあった。別に開き直るわけではないのだがおそらくはこの性格はちょっと矯正不可能である。

 女侠客ものといっても、何の用意もなく取りかかると必然的に鬼六さんの名作の真似っこになってしまう。それでは面白くない。なにかス トーリーに一本筋を通すための良い手段はないだろうか。

 そう考えてたどりついたのは、通俗小説やテレビの時代劇で良くやる手である。要するに過去の有名な事件や名作をまったく舞台を変えて 翻案するのである。たとえばダシール・ハメットの『赤い収穫』のプロットは過去、ドラマや映画など色々な形で取り上げられている。シェイクスピアのロミオ とジュリエットも、長寿番組『水戸黄門』のシリーズが変わるたびに使われたものだ。

 しかし、過去の名作といえども小説をそのまま翻案するというのは気が引ける。そこで過去の歴史上の事件を時代を変えて小説化すること にした。具体的には白川の大好きな設定である歴史物の「関ヶ原の戦い」から「大阪の陣」あたりを太平洋戦争後の関東のある都市におけるやくざ同士の争いに してしまうのである。

 もうおわかりだと思うが『被虐の鉄火花』にある塩原家というのは豊臣家である。菊子は淀君、美弥子は秀頼ということになる。吉岡重吉 は当然家康。ヒロインの蘭子は石田三成、若頭の田宮と若頭補佐の角田は島左近や大谷吉継といった役回りである。蘭子の妹の慶子はさしずめ真田幸村だろう か。このあたりは林崎一家の裏切り者に堀尾とか山内といったネーミングが施されているのでわかる人にはわかるようになっている。

 第4話か5話で吉岡組の四天王というのが出てくるが、このあたりは無意識に書いていて後で「あ、これ徳川四天王じゃん」と思ったくら いである。

 もちろんプロットを『関ヶ原』や『城塞』に借りているからといって、延々とやくざの歴史小説をやるつもりはない。すぐにSMになるの でご心配なく。ただ、SMネット小説といえど、作者も貧困な想像力を補うための色々な苦労があるのだな、と思っていただければ幸甚である。

 今回のカットはリクエストのあった『3D版お蘭』である。ちなみに本編の挿絵はいわゆる「3Dではない」普通の絵である。

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