新 白川夜話

9.ネットの官能小説(2000.7.2掲載)

 文芸春秋に連載中の渡辺淳一作「シャトー・ルージュ」が評判である。白川はざっと立ち読みしただけなのだが、ストーリーは、主人公 が気位が高く聡明で美人、かつセックスに対して嫌悪感を持つ妻を「性の調教団」に預けるというもの。鬼六さんの小説にありがちな設定ある。

 渡辺淳一は「失楽園」でもSM的描写が多く、日経新聞を読むおじさん連中の股間を朝っぱらから熱くさせていたので、そっちの方面も好 きそうではあった。しかし文芸春秋もついにSM小説を載せるようになったか。

 ところで、今回のテーマは「シャトー・ルージュ」ではなく、インターネットのSM官能小説につい てである。

 インターネットは素人でも自分の作品を簡単に多数の人間に対して発信できるのが利点であることは今更いうまでもない。その中でもテキ ストデータの取り扱いは元々インターネット向きであり、初心者でも取っつきやすい事から、ネット小説が大流行である。

 しかし、これらの中にはあまりにも安易というか、他人に見せるレベルに達していないものがあまりにも多い。しばらく前はそれでも幾つ か佳作があったのだが、数少ない良質な書き手が一巡してしまったためか、最近は玉石混淆ならぬ石石混淆状態である。

 こういう事を書くとそれならお前は一体どうなのだといってくる人が必ずいるが、白川はこの「白川夜話」では自分のことは棚に上げる評 論家モードになっている。批評というほどのレベルでもないが、インターネットのアマチュア小説でありがちな欠点をいくつか上げてみたい。

 今回は人によってはちょっと聞き苦しい内容になるかも知れない。オンライン小説を発表している人にとっては厳しいことをいうかも知れ ないが、出来るだけ怒らずに読んで欲しい。
 

1.冒頭に延々とキャラクターについての説明的文章が続く

 ヒロインは夫に死なれて何年だとかどんな性格だとか顔かたちや身体的特徴はどうだとかを一通り説明しておもむろに官能描写に入る というパターンである。これははっきりいってげんなりしてしまう。設定は出来るだけストーリーの中で自然に説明して欲しい。冒頭でいきなり読者を惹き付け る事件を起こすのが重要である。

2.過激で客観性に欠ける地の文

 極端な例だが、地の文に「○○はおもむろに自分のチ×ポを△△のオ××コの中に挿入した……」とかいった表現がある。こういう文 章を読むと思わずひっくり返ってしまいそうになる。あまりにも露骨で身も蓋もない。古今の官能小説を読めば、性器についての言い回しはそれこそ何十とあ る。四文字言葉の使用は科白の中に限定して欲しい。
 あと、地の文で「余談だが……」などといっていきなり作者が登場することがある。他の分野ではいざ知らず、SM官能小説ではこれは御法度である。読者は この手の小説を読む場合極力作品の官能世界に引き込まれ、そのファンタジーの世界で遊びたがっているものである。いきなり現実に引き戻すのは興が削がれる ことおびただしい。

3.基本的な「文章の書き方」が守られていない

 たとえば文頭では一文字下げる、科白は原則改行する、「」書きの科白では文字は下げない、閉じ括弧(」)の前の句点はいらない、 といったルールである。こういった基本的な文章の約束事が守られていないと文章は極めて読みにくくなる。


 SM官能小説は自分の興が乗っているときに書き飛ばさないと良いものができないのは確かである。しかし、発表する前には是非読み直して、推敲して欲し い。この手の小説は素人が生涯ただ一作、という気合いで書いたものが面白いのは確かである。ただ、雑誌メディアの場合は、編集が相当筆を入れ、上記のよう な欠点は一応クリアしてから発表されていた。

 ネット小説に悪文が多いのは編集者の役割を果たす人がいないことによる弊害である。イマジネーションはそれなりに豊かのだから、良い 編集者がいればもっと読みごたえのある作品となる可能性があるものも多いのだが。

 白川がストーリー作りの参考書として推薦するのは、有名なホラー作家、D・クーンツの「ベストセラーの書き方」である。また文章の文 章の基本的なルールを学ぶはダカーポの「文章上達講座」あたりを読んでおくと良い。好みの作家の文体模写をひたすらやってみるのも良いだろう。
 

(2003.5.5追記)

 えー、これは村瀬さん等から再掲載の希望があったものです。当時と現在では考え方は変 わってないし、ネット小説の状況も基本的には変わり映えしないような気がします。この「ネットでの編集者の不在」という状況に一石を投じようとしたのがこ の「新 耽美画報」であり、今回発行される「浪漫活劇文庫」です(「浪漫活劇文庫」では白川は相当ダメ出しをしました)。ところで小説募集への応募作品が 全然なくてちょっと寂しいですね……。

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