新 白川夜話

6.好きなイラストレーター(沖渉二)(1999.4.15掲載)

 好きなイラストレーターといえば何といっても沖渉二。描く女性のキリリとした顔立ち、肉感的な 体つき、大胆かつ繊細な筆致、バラン スの良い構図、どれをとってもこの世界のナンバーワン。

 古くは「裏窓」時代から活躍し、サン出版の「SMコレクター」や「アブハンター」(後に「SM奇譚」)では、劇画、挿絵、口絵、絵物 語と一人三役も四役をこなし、両誌は沖渉二でもっていたといっても過言でない(と思う)。

 鬼プロ発行の「キング」では、「穴蔵令嬢」や「緋櫻地獄」など、団鬼六原作の劇画が懐かしい。「ファン」、「マニア」での扉絵に二色 絵物語。千草忠夫と 組んだ「スピリッツ」小説挿し絵、「秘小説」での杉村春也作品挿し絵、いずれもこの世界を代表する作品群である。

 この世界の挿し絵画家には、古くは奇譚クラブの四馬孝、時代小説の挿し絵で有名な堂昌一の変名である春日章、これも石原豪人名での怪 奇小説・探偵小説の挿し絵で知られる林月光(昨年惜しくも死去)、日本画出身の前田寿按、劇画出身の笠間しろう、繊細な筆致で絹絵を描く小妻容子など、そ うそうたる顔ぶれが並ぶ。

 しかし、この世界にはやはり画家の方にも、この趣味に対する嗜好といったものがあった方がよい。趣味と画力のバランスが最も重要では ないか。

 上に並べた面々には、ある程度はこの種の趣味が存在するようだが、画力と趣味のバランスが最も良いのは沖渉二だと思う。そういった意 味では、沖渉二はイ ラスト界の「団鬼六」といったところか。

 沖渉二には普通の官能小説の挿し絵もあるが、これらははっきりいって、この世界の小説挿し絵とくらべて、著しく精彩を欠く。沖氏はや はりこちらの世界の人だと思うのである。

 沖渉二は現代日本を舞台にしたものだけでなく、いわゆる「赤毛物」を描かせても非常に上手い。二色口絵や絵物語では、南北戦争後、白 人と黒人の地位が逆転し、南部の上流階級の白人女が零落して、今まで奴隷として使ってきた黒人達に責めなぶられるという設定のものを良く描いた。

 異国情緒豊かな、アラブ等を舞台にしたものも得意で、「コレクター」に連載された山光黎作「美しき生贄」の挿し絵は、最も脂がのった 時期の氏の代表作と いえよう。

 かと思えば純和風の時代物も実に達者で、美濃村晃氏と組んだ、劇画「お銀受難旅」といった名作もある。

 このHPに掲載されている、また今後掲載されるであろう私の拙いイラストは、沖氏の影響を多大に蒙っている。現在、氏が筆を折った状 況になっているのは 実に残念である。沖氏の劇画化による「花と蛇」を切に読みたいと願っているのは私だけだろうか。
 

(2002.12.31追記)
 この後沖氏はSM小説の挿し絵で復活し、ソフトマジック社から沖氏の劇画集が4冊も発行され た。この時点ではこれらの動きに白川自身が関わることになろうとは想像もしていなかった。

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