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第17話
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先程浴室で裸を見たはずなのに、エプロンの紐だけの玲子さんの後ろ姿は、
素っ裸よりもむしろ扇情的です。玲子さんは冷蔵庫を開けると、ラップをかけた皿をいくつか取り出します。
「私が好きなものと似ているわ。矢っ張り同い年ね」
玲子さんがテーブルの上に並べたのはスライスしたアボガド、冷や奴にキムチと鰹節をかけたもの、オクラ、浅漬けなどです。いずれもそれほど手間はかかり
ませんが私の好物で、妻がよくつまみとして用意するものです。
私は腹立たしい気持ちはあるのですが、これから素面で玲子さんと話す気にもなりません。悪酔いしないように料理を食べだしましたが、これが美味しく、そ
んな風に感じる自分にも嫌気がさします。
「竹井や遠藤は若いからこういうものじゃ満足出来なくて、揚げ物なんかが好きみたいね。奥様も竹井の部屋でつまみに鶏の空揚げを作らされた、っていってた
わ」
私は妻が裸にエプロン一枚の格好で台所に立ち、料理している姿を想像しました。玲子さんが私を動揺させるために嘘をついているに違いないと思いつつ、心
は穏やかではありません。
「紀美子が竹井のマンションに行った日というのはいつのことだ」
「いつだったか……覚えていないわ」
「それは本当のことじゃないからだろう」
「本当よ」
「嘘だ」
私は再びグラスのビールをぐいと飲みます。玲子さんがすかさず空いたビールに注ぎます。
「ビールが足らないわね」
玲子さんは再び立ち上がり、冷蔵庫にビールを取りに行きます。玲子さんの裸の尻を目で追う自分が嫌になります。
「足らなくなると思って、家から持って来ておいたの。たくさんあるから遠慮なく飲んでね」
玲子さんはそう言うと自分のグラスのビールを飲み干し、持って来たロング缶を開けて注ぎます。
「ところで、押し問答をしていてもしょうがないわ。現に奥様は一昨日から昨日までも竹井のマンションへ行っているわよ」
「なんだと?」
玲子さんの言葉に私は頭を殴られたようなショックを受けました。
「馬鹿なことを言うな。紀美子は一昨日から実家に帰っている」
「あら、確認をしたの」
「実家にいる紀美子と電話で話した」
「東山さんからかけたの?」
「いや……」
確かに一昨日の電話は妻からかけて来ました。しかも電話の子機の調子が悪いということで、自分の携帯からかけて来たのです。
「東山さんはその時、実家の奥様のご両親と話した?」
私は玲子さんの問いかけに黙り込みます。
「話していないのね?」
「義父と義母は一日中留守で、遅くならないと帰らないから電話は明日にしてくれということだった」
「おかしいと思わなかったの? どうしてご両親が留守なのに急いで実家に帰らなければいけないの。帰るのは昨日でいいはずじゃない」
確かに玲子さんの指摘のとおりです。私もそれを疑問に思い、なかなか眠ることが出来なかったのです。
「奥様は実は竹井さんのマンションに行っていたのよ。東山さんに殴られた傷が心配になったみたいね」
「嘘だ……」
「そう思いたい気持ちはわかるわ。でも事実なのよ。竹井は足の骨にヒビが入っているようなの。奥様は、自分のせいでこんなことになって申し訳ないと竹井さ
んに謝りに行って、身の回りのお世話をしているうちにそのまま泊まったみたいなの」
「なぜそんなことを玲子さんが知っている?」
「昨日の朝、私も竹井さんのマンションにお見舞いに行ったのよ。もともと私と遠藤さんが巻き込んだようなものだから、責任を感じちゃって。簡単に食べられ
るものをタッパーに入れて持っていったんだけど、奥様が甲斐甲斐しく朝ご飯を作っていたので私の出る幕はなかったわ」
玲子さんはそこまで喋ると、ふふっと小さく笑います。
「何がおかしいんだ」
私はグラスにビールを注ぎ足して、一気に煽ります。
「2人ともまるで新婚の夫婦みたいに楽しそうだったわ。竹井さんが怪我をしたせいでかえって絆が深まったみたい――竹井さんったら、怪我はしているけれど
あっちのほうは元気でしょう。それでも奥様に散々攻められて大変だったって、笑いながらこぼしていたわ。あなたはそのまま横になっていて、紀美子がしてあ
げるから、ってフェラチオで責め立ててそのまま騎乗位で」
私が硬化した表情で黙り込んでいるのを見て、玲子さんは口をつぐみます。
「……ごめんなさい、調子に乗り過ぎたみたいね。東山さんには辛い話だったかしら」
そんなはずはない……妻がそんなことをするはずはない。私は頭の中で玲子さんの言葉を必死に否定しようとするのですが、片足をギブスで固めて横になった
竹井の上に素っ裸の妻が跨り、淫らに腰を振っている姿を想像し、たまらない気持ちになりました。
「あ、そうそう、話は変わるけれど、土曜日に東山さんが持っていったデジタルカメラ、返していただけるかしら? 次の週に子供のサッカーの試合があるの
で、撮ってあげたいのよ」
私は頷き、寝室に置いてあるデジタルカメラを取りに行き、玲子さんに返します。
「当然のことだが、メモリに入っていた写真はすべて削除させてもらった」
「中身は確認したの?」
私は首を横に振りました。
「そう、でもバックアップは取ったのね」
私はぐっと言葉に詰まりました。証拠になるかもしれないのでメモリの中の数十枚の写真は私のパソコンにバックアップしていますが、内容を確認する勇気は
ありませんでした。
「そういえば、この前のビデオはどうしたの。ここには置いていないのね」
玲子さんは部屋の中を見回すと立ち上がり、テレビの横にあるビデオ棚を確認します。
「当たり前だ。子供が間違ってみたらどうする」
「でも、捨ててはいないんでしょう?」
沈黙が私の回答でした。
「東山さんって、嘘のつけない人ね。似たもの夫婦って言葉があるけれど、東山さんのところはその逆ね」
玲子さんはクスクス笑いながらこちらを見ます。
「私も嘘はつけないタイプなの。東山さんと同じよ」
「それこそ嘘だ」
「どうして? 私が嘘をついたことがある?」
「それは……」
確かに、玲子さんが嘘をついているということが証明されたわけではありません。今のところは、玲子さんと妻の言うことが互いに矛盾しているというだけな
のです。
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