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第5話
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「ただいま」
「お帰りなさい」
妻が私を迎えに出ます。ブラウスは確かに先程着ていたものと同じですが、ミニスカート姿ではなくパンツに着替えています。キッチンで珈琲メーカーが小さ
な音を立てています。
「さっきはごめんなさい。折角誘ってくれたのに」
「ああ、残念だったな」
私はすまなそうな顔をする妻をちらりと見ます。
「おれも紀美子のミニスカート姿を見たかったんだが」
「えっ」
妻の顔色がさっと変わります。
「いたの……」
「ああ、お前たちのすぐ後ろにな。電話をかけたら目の前の女が出たので、さすがのおれも驚いた」
「……」
「そればかりかもうC駅に着いているって言うじゃないか。一体今目の前で電話に出ている女は誰なんだと悩んだよ」
「西口のXデパートにいるっていったのは……」
「嘘だ。しかし紀美子の嘘に比べると罪はないだろう」
妻は悄然と肩を落とします。
「……ごめんなさい」
「何を謝るんだ? 玲子さんたちと一緒に竹井とダブルデートをしていたことか? この前の海以来ずっと付き合っていたことか? それとももう奴と寝てし
まったことか?」
「ひどい、そんなことは絶対ありません。誤解です」
「誤解されるような行動をとったのは紀美子だろう」
「嘘をついてしまったことは謝ります。ですが、あなたが考えているようなことは一切ありません。今日も玲子さんと2人で買い物をするはずだったんです。そ
うすると、なぜか待ち合わせの場所にあの2人が……」
妻は必死で私に説明します。
「この前の海と同じで、また2人のデートのダシに使われたという訳か? それならどうして竹井が一緒にいた?」
「遠藤さんの話では……竹井さんがどうしてももう一度私に会いたいと……」
「なぜ人妻のお前に会いたがる? それにあいつとなら、バレーの練習でも顔を合わせているだろう?」
「みんながいる場所でなく、2人で話をしたいと……でも、2人きりでは誤解されるから、玲子さんと遠藤さんと一緒にということで」
「何の話があるんだ? 紀美子を口説きたいってことか? 遠藤が玲子さんと付き合っているのを見て、自分も人妻と付き合いたくなったってことか」
「そんなのじゃありません。ただ、友達として……」
私は妻の言葉をピシャリと遮ります。
「言っておくが、玲子さんと紀美子はまったく立場が違うぞ。玲子さんは独身だが、紀美子は俺の妻だ」
「もちろん分かっています。でも、あなたにも女友達はいるでしょう。玲子さんもその一人ではないですか」
「確かにいるが、紀美子に聞かれた時に嘘をついて隠さなければならない相手はいない」
私の言葉に妻はがっくりとうなだれました。
「携帯を見せてみろ」
妻は黙って私に携帯電話を差し出します。着信やメールをチェックしましたが、不審なものはありません。玲子さんからのメールは今日の買い物の待ち合わせ
に関するものでしたが、確かに遠藤や竹井のことについては一切触れられていませんでした。
「玲子さんと買い物の約束をしていたというのは嘘では無さそうだな」
妻は愁眉を開いたような表情を私に向けます。
「しかし、この前のこともあるから玲子さんには少し注意しておいた方が良いかもしれないな」
「あなた……それはやめて。お願いです」
「なぜだ?」
「玲子さんはあまりにも辛いことがあって、そんな時に遠藤さんに出会って、多分今は気持ちが普通じゃないんです。私がこれからちゃんと注意しますから」
「お前も玲子さんの影響で普通じゃなくなっているように見えるぞ。この前のビキニや今日のミニスカートは一体なんだ?」
「すみません。つい、玲子さんの変化が眩しくて、確かに影響されてしまいました。これからは気をつけますから」
私には釈然としないものが残りましたが、必死で哀願する妻を見て今回は許すこととし、玲子さんへ注意することもありませんでした。
それからの妻はミニスカートやローライズのジーンズをはくこともなく、以前のおとなしい格好に戻りました。私はほっとする反面、なんとなく物足りない気
分になったのも事実です。妻は私に気を使ってか、玲子さんとの付き合いはバレーボールクラブだけに留めていました。
夏も終わり、秋の始めになると妻達のバレーボールクラブも定期的に試合が入るようで、練習時間がだんだん長くなっていきました。
ある週末、その日も練習のあった夜、私の携帯に玲子さんから電話が入りました。
「東山さん、玲子です」
「ああ、玲子さん。お久しぶりです」
「そう、海以来ですね。あの時はごめんなさい」
私の携帯に玲子さんが電話して来るなんて今までないことです。妻が練習中に怪我でもしたのでしょうか。
「実はまた試合が近いんですが、私と奥さんのコンビプレーが上手くいかなくて、少し特訓していくことになったんです。そのご連絡をと思って」
「そうですか、でも、どうして玲子さんが連絡を?」
妻が直接私に電話をすればすむことなのに。私は不思議に思いました。
「それが先日、あんなことがあったばかりでしょ? 紀美ちゃんから聞きました。私が軽率だったんですが、今回も自分から電話しても東山さんから信用しても
らえないんじゃないかって、紀美ちゃんが……」
練習で遅くなるなどと私に言えば、竹井との仲を私に疑われると思ったのでしょう。
「わかりました。妻に代わってもらえますか?」
「はい、ちょっと待ってくださいね。紀美ちゃん、ご主人よ」
玲子さんが妻を呼ぶ声が聞こえます。少し待たされてから妻が電話口に出ました。
「もしもし……あなた……」
妻の声が少し変です。
「大丈夫か、随分息が荒いけど」
「ずっと練習していて……それで……あっ!」
「どうした?」
「な、なんでもありません。大丈夫です……そ、それで、玲子さんから聞いたと思いますが、もう少し練習していくことになって……すみません」
「わかった。あまり無理しないようにしろよ」
「あ、ありがとうございます……うっ」
そこで電話は切れましたが、切れる寸前に妻が低いうめき声を上げたような気がしました。
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