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第4話
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「就職してから会社のクラブでしばらくやっていたんですが、ここのところずっ
とご無沙汰で……今度遠藤からクラブのコーチを手伝ってくれと言われているんです」
「そうなんですか!」
妻の顔が輝きます。
「それは心強いです。最近ずっとセッターをしていた人が抜けちゃって……玲子さんは私に後をやれというんですが、自信がなくて……」
「奥さんなら大丈夫ですよ。遠藤から聞いていますよ。なかなか筋がいいって」
「本当ですか、うれしいわ」
妻は私をそっちのけで、すっかりはしゃいでいます。私はあまり面白くありませんでした。
気のせいか竹井の視線は時々妻のビキニの胸元にちら、ちらと注がれているようでした。
その後子供たちが海から上がってくると、遠藤と竹井はすすんで4人の男の子の相手をし始めました。玲子さんの2人の息子は既に遠藤とは面識があるよう
で、すっかり慣れた雰囲気です。私の息子2人も最初は戸惑っていましたが、すぐに打ち解けて一緒に遊び出しました。さすがにクラブのコーチを引き受けるだ
けあって人あしらいは上手いものです。
最初は玲子さんと遠藤のダシに使われたようでやや不愉快だった私ですが、子供たちが楽しそうにしているのを見ているうちに、すっかり気分がよくなりまし
た。
いつの間にか帰る時間になり、遠藤は玲子さんに車を運転してマンションまで送り、遠藤と2人で来た竹井が1人で車で帰ることになりました。私達はもちろ
ん家族4人でマンションへ帰ります。
帰り際に玲子さんは私に近寄ると、すまなそうに言いました。
「東山さん、ごめんなさい。家族でのお出掛けをダシに使ったみたいで。海に行くのなら今日しか予定が合わないと彼が言うものだから……」
玲子さんはちらりと遠藤の方を見ます。遠藤は玲子さんの息子2人とふざけあっています。
「いや、気にしなくていいよ。良い人みたいじゃないか」
「そう思う? ありがとう」
玲子さんはにっこり笑ってそう言うと、妻に挨拶をして車に乗り込みました。
私達家族も車に乗り、家路につきます。早めに出ましたがそれなりに渋滞はあります。子供たちは疲れたのか、後部座席でぐっすり眠っています。
突然妻の携帯が、着信メールを告げる小さな音を立てました。
「あら?」
妻が携帯を取り上げ、メールを確認すると驚いたような声を上げました。
「竹井さんからだわ」
「竹井だって?」
私は聞き返しました。
「どうして彼が紀美子のメールアドレスを知っているんだ?」
「さっき交換したのよ」
「なに?」
妻はけろりとして答えます。
「だって、これからバレーのクラブでお世話になるし、練習日時なんかの連絡のために教え合った方が便利だなと思って」
「見せろ」
私は妻の携帯に手を伸ばします。
メールの内容は大したものではなく、今日は楽しかった、家族の団欒に割り込んで申し訳ない、これからもよろしく、といったものでした。
「練習日時の連絡じゃないな」
私は皮肉っぽくそう言うと、妻に携帯を返します。
「ただの挨拶よ」
「紀美子は簡単に自分のアドレスを男に教えるのか?」
「誰にでも教える訳じゃないわ。遠藤さんのお友達だって言うから、信用できる人だと思って」
「どうして遠藤の友達だと信用ができるんだ? 紀美子は遠藤の何を知っている?」
「……」
紀美子は黙り込みます。それを見ていると私は少し言い過ぎたかな、という気分になって来ました。
「もうやめよう、楽しかった一日をこんなことで不愉快に終わらせたくない」
「あなた、ごめんなさい。私が軽率でした」
「もういい」
渋滞で止まっていた車の流れが動き始めました。私はハンドルを握り直し、アクセルを踏みます。私の心に刺のような不安が残りました。
その後、しばらくの間は平穏な日々が続きました。8月に入ったある日、私はたまたま仕事でわが家に近いターミナル駅まで行くことがあり、そのまま直帰す
ることにしました。
(そういえば、妻がパートをしている銀行はこの近くだな。もう仕事が終わっている頃だろうか)
もしこの辺りにいるならお茶でも飲んで帰ろう。そう考えた私は駅を降りた広い連結通路で携帯を取り出しました。すぐ前を男女4人連れが歩いています。女
性2人が真ん中、その両隣を男2人が挟むようにしており、4人ともかなりの長身です。
私は2人の女性のミニスカートに包まれたヒップや、すらりと伸びた太腿をぼんやりと眺めていました。
(紀美子もたまにはあんなミニをはいてくれないかな)
そんなことを考えながら、携帯で妻を呼び出します。すると前を歩いていた女性がバッグから携帯を取り出し「はい」と言った途端に携帯がつながったので、
私は死ぬほど驚きました。前を歩いていたミニスカートの女性、その一人が妻だったのです。
私はなぜかあわてて、柱の陰に身を隠しました。
「もしもし?」
妻は立ち止まって携帯を耳に当てます。他の3人もその場で、妻の様子を見ています。私は妻以外の3人の男女が玲子さん、遠藤、竹井だということを確認し
ました。
「俺だ」
「あ、あなた……どうしたの?」
「実は仕事でA駅まで来たんだが、紀美子が近くにいるならお茶でも飲もうかと思って」
「えっ?」
妻は慌てた様子で辺りを見回します。私の姿を探しているのでしょう。
「A駅のどこなの?」
「西口のXデパートの地下だ」
私はあえて嘘を言います。妻の声が安堵したような響きに変わりました。
「……ごめんなさい。もうC駅についてしまったところなの。ここで待っていようか?」
C駅は私たちのマンションの最寄り駅で、A駅からは10分ほどです。
「いや、それならいい。俺も早く帰るから家で珈琲でも飲もう」
「わかったわ」
私が携帯を切ると、妻は焦って他の3人に事情を説明し始めます。3人と別れた妻は急いで改札に向かいました。私が隠れている柱のすぐ横を通り過ぎました
が、慌てている妻には私の姿は目に入らなかったようです。妻を見送った3人はやがて駅の外へ向かって歩いて行きます。
私はそのまま少し時間をつぶすと、ゆっくりと改札へ歩きだしました。妻とは確実に電車一本分ずらすことが出来たでしょう。
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