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第3話


 妻は人一倍羞恥心が強く、若いころから例えばビキニの水着など、私が勧めて も決して着ようとはしませんでした。それがしゃがみこむとお尻の割れ目まで見えそうなローライズを平気ではいているというのが私には分かりませんでした。
「玲子さんもはいているわよ」
「それは知っているが……玲子さんに選んでもらったのか?」
 妻はにっこりして頷きます。妻はパートの帰りなど玲子さんと一緒に買い物に行くことが度々あるようです(玲子さんと妻の勤め先は、部署こそ違いますが同 じ銀行の本店です)。
「あなた、この間玲子さんのお尻に見とれていたでしょう。それを彼女に話したら、それは大変。ご主人を私に取られる前に、紀美ちゃんも買いなさい、って」
 妻はあくまで無邪気です。
「玲子さん、お洒落になったわよ。この間なんか随分大胆なミニのスーツを着ていたけれど、彼女、足が長いからすごく似合ったわ。女優さんみたいだった」
 妻がやや興奮して話します。
「女は年を取ると地味な格好をしてますますオバサン臭くなるけれど、かえってお洒落をしないと駄目ね。私も玲子さんを見習わなくっちゃ」
 妻がお洒落になるのは歓迎ですが、最近若い恋人のせいで急激な変化を遂げたと思われる玲子さんの影響でそうなったということに、私は一抹の懸念を覚えま した。しかし、私はその時はまだまだ事態を軽く考えていました。

 次の週末、わが家は玲子さん一家とともに、海へ出掛けることとなりました。私の家族が4名、玲子さん一家が3名、それぞれの車に分乗し、朝早くマンショ ンを出ました。
 用心して早めに出かけたせいか、それほど渋滞にもぶつからず、予定よりも早めに海岸に着きました。海の家に荷物を置いた私達は早速水着に着替えることに しました。妻と玲子さんは楽しそうに笑いながら更衣室に向かいました。
 子供たち4人ははしゃぎながら先を争って着替え、シャワーもそこそこに海へ走ります。小さなころからスイミングスクールに行かせておいたお陰で、私の子 供は2人共海が好きですし、玲子さんの家もスポーツマン一家ですから、泳ぎは得意のようです。
 私は海の家で借りた大きめのパラソルの下に座り、子供たちが波打ち際ではしゃぐ様子を眺めていたら、いきなり目の前に4本の足が現れました。
「東山さん、どう?」
 水着姿の玲子さんがポーズを取ります。玲子さんの水着は鮮やかなグリーンのビキニでした。隣の妻の水着も驚いたことに玲子さんのものと同じデザインで色 違いのオレンジのビキニです。私は妻のビキニ姿をみるのは初めてでした。
「これは?」
 玲子さんは悪戯っぽく笑って、両腕で乳房を絞るような格好をします。「お笑いも出来るアイドル2人組」が流行させていたポーズです。玲子さんの豊かな胸 が強調され、私はどぎまぎしました。
「駄目よ、玲子さん」
 妻が玲子さんを肘で突くような格好をします。玲子さんは笑いながら「ごめん、ごめん。ご主人を取るつもりはないわよ」などと笑います。
 私は妻の姿を改めて見ました。比較的オーソドックスなビキニですが、サイドの一番細い部分はほとんど紐状になっており、それなりに露出度は高いです。若 い娘が着る分にはそれほどでもないのでしょうが、既に熟女の領域に入る妻が着ると、むっちりとした肉が強調され、健康的というよりは妙に扇情的に見えま す。
「そんなにじろじろ見ないで……」
 妻は恥ずかしそうにいうと用意していた薄い上衣を羽織ります。私は少し横にずれ、妻と玲子さんのために場所を空けました。玲子さん、妻、私の順で座りま す。
「紀美ちゃん? 少し海へ入らない」
 玲子さんが妻を誘います。妻が許可を得るように私の方を見ます。
「ここで荷物を見ているから行っておいで」
「荷物を見ているんじゃなくて、紀美ちゃんと私のビキニを見ているんでしょ?」
 玲子さんはそう言って笑うと、上衣を取った妻と共に海の方へ歩いて行きます。私はぼんやりと2人の姿を眺めていました。
 さきほどまで空いていた海岸もだいぶ人が増えて来たようです。私達のような家族連れも多いですが、やはり海は男女のカップルが目立ちます。それらの中に はとてもプールでは着れないだろうと思うような大胆な水着姿の女性も多く、また家族連れの女性でもビキニ姿は少なくありません。その中で玲子さんや妻の姿 が特に不自然という訳ではありません。
 しかし、168センチの玲子さんと165センチの妻が、鮮やかなグリーンとオレンジの同じデザインのビキニを身につけ、颯爽と海岸を歩く姿はそれなりに 目立ちます。若い女にはないいわゆる熟女の色気とでもいうべきものが醸し出されているのでしょうか。カップルの若い男が思わず2人を目で追い、隣の女の子 からつつかれる姿も見ました。
 ふと見ると、サングラスをかけた2人の男が妻達に近づき、話しかけ出しました。よく日焼けした筋肉質の、いかにもスポーツマンタイプの男たちです。
(ナンパ?)
 私は妻達が男たちを軽くいなすものと思っていたら、意外なことに楽しそうに話し始めました。4人は不審そうに眺めている私に近づきます。
「東山さん、こちら私と紀美ちゃんがバレーボールでお世話になっている遠藤さん」
 玲子さんが紹介すると男の一人がサングラスをとり、私に向かって頭を下げます。
「遠藤です。はじめまして」
 私はあわてて立ち上がり、頭を下げます。
「こちらこそ初めまして。家内がいつもお世話になっています」
「こちらこそ奥様と玲子さんにはいつもお世話になってます。あ、こっちは友人の竹井です」
「こんにちは、竹井です」
 竹井と呼ばれた遠藤と同じ年くらいの、やはりスポーツマンタイプの男が頭を下げます。
 妻は遠藤が玲子さんの亡くなったご主人に似ていると言っていましたが、確かにどことなく雰囲気は似ています。違いを言うなら遠藤の方がバレーボールの コーチということで背が高く、当然のことながらはるかに若く、かなり色男であり、反面やや軽薄な感じがするくらいでしょうか。
 連れの竹井は、遠藤とは違い無骨な感じの男です。身長も遠藤ほど高くはありません。
「こんなところで会うなんて偶然ですね」
 妻は目を丸くしながら微笑しています。妻はこういった天然のところがありますが、そんな都合のよい偶然はそうそうありません。玲子さんと遠藤は待ち合わ せをしていたに決まっています。
「ご一緒してもよいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
 私は仕方なく場所を空けます。遠藤と竹井は玲子さんと妻の間に座ります。端から玲子さん、遠藤、竹井、妻、私という順になりました。
 玲子さんと遠藤は2人で話が盛り上がっている様子で、残された3人はやや手持ち無沙汰になります。仕方なく妻が竹井に話しかけます。
「竹井さんもバレーボールをされるんですか?」
「はい、遠藤とは大学のバレー仲間です。奴がスパイカーでセンター、僕がセッターでした」
「セッターですか、すごいですね」
「いや……僕たちの代はあまり強くなくて……先輩からいつもどやされていました」
「今はもうやっていないんですか?」