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第2話
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「バレーボールクラブのコーチをしている人。遠藤さんっていうの」
「前から知っている人か?」
「いいえ、玲子さんがクラブを休んでいる間に新しく入ったコーチよ」
「お前も玲子さんと一緒にバレーをやっているんだよな。どういう人なんだ?」
「あら、気になるの」
妻が悪戯っぽい目で私を見ます。
「気になるって……玲子さんとは亡くなったご主人を含め家族ぐるみのお付き合いだ。気になるのも当たり前だろう」
「冗談よ」
妻は楽しそうに笑います。
「いかにもスポーツマンタイプの爽やかな感じの人よ。年は、そう……私よりも5つくらい下かしら」
「えっ」
妻より5つ下ということは、私と同い年の玲子さんとは8つ違いということになります。
「まだ30代前半ってことか」
「そうね……そういえば玲子さんよりは随分年下ね」
妻はのんびりしたもので、初めて気づいたように言います。
「でも、最近はそんなカップルも珍しくはないわ。玲子さんも若々しいし」
「しかし……」
私はなんとなく腑に落ちません。男勝りで毅然とした玲子さんと、8歳も年下の男の組み合わせというのが彼女らしくないと感じたからかも知れません。
「それに、遠藤さんってどことなく、なくなった玲子さんのご主人に似ているの」
「へえ……」
私はそこで始めて納得したような声を出しました。
「お前はどうなんだ。若いコーチに色目を使ったりしていないだろうな」
「あなたこそ馬鹿なことは言わないで」
私は妻をからかいながら牽制しましたが、妻は相手にしません。
玲子さんはご主人のことを深く愛していたことは間違いありませんが、亡くなって2年以上がたち、寂しさを埋めるような存在が現れたとしても不思議ではあ
りません。ましてご主人に似た男性ということでしたらなおさらでしょう。
玲子さんのご主人が亡くなってから、私は時々男でなければ難しい、たとえば大きな家具を動かしたり、パソコンの設定をしたりという仕事を玲子さんの家で
こなしたことがあります。私は玲子さんに幸せになってもらいたいと思う反面、彼女が遠くに行ってしまうような寂しさを感じていました。
その時私は、この遠藤というまだ見ぬ男のために、玲子さんだけではなく私の妻までもがとんでもない体験をすることになるとは思っても見ませんでした。
会社から帰った私に、妻が言いにくそうに話を切り出したのは、夏の初めの頃でした。
「あなた……玲子さんのことだけど」
「彼女がどうかしたか」
私はスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを外しながら聞き返します。
「ちょっとおかしな噂を聞いたの」
「噂?」
私は妻の方を向き直ります。
「うちと同じエントランスの中島さん……彼女、今自治会の役員をしているの。玲子さんのところが自治会費の納入がずっと滞っているということで、昨日催促
に行ったらしいの。ドアのチャイムを鳴らしたら玲子さんが出て来たんだけれど……」
妻はそこで言いにくそうに言葉を切ります。
「どうしたんだ?」
私はじれったくなって先を促します。妻の話は(女の話は往々にしてそうなのでしょうが)なかなか結論に到達しないので、聞いていて苛々してしまいます。
「その……ビキニの水着姿で出て来たんですって」
「なんだって?」
私はさすがに驚きます。
42歳の女性が家の中とはいえ、ビキニの水着で過ごすでしょうか。たまたま来客があった時にシャワーを浴びており、裸にバスタオルを巻いて出て来たとい
う方がまだありそうです。
「日光浴でもしていたのかな」
「まさか……昨日は一日中雨よ」
「そうだった……」
どういうことでしょう。先日見かけたローライズのジーンズ姿といい、不審なことが続きます。玲子さんの新しい彼、遠藤という男と何か関係があるのでしょ
うか。
「しかし、噂は噂だ。本人に確認した訳じゃないだろう。それに、たまたま買って来た水着を試しに着てみたところかもしれないぞ。ほら、若い恋人が出来たと
行ったじゃないか。そいつと一緒に海に行くつもりかもしれない」
「それだけじゃないの」
妻は話し続けます。
「少し前だけれど、スーパーで買い物をしている玲子さんを見かけたの。声をかけようと思ったんだけど……」
「誰かと一緒だったのか」
「ううん……そうじゃなくて、その時の格好なの。若い娘が着るようなタンクトップに、ジーンズを股下で切ったようなパンツ……あれは驚いたわ」
「若い彼の趣味かな?」
「それにしても極端よ。あれじゃまるで……」
妻は言いかけて言葉を飲みました。親しい友人に対してやや侮蔑的な表現を使いそうになって、さすがに気がさしたのかも知れません。
「玲子さんはいつも色気のない格好をしていたからな。だからかえって目立つのかもしれない。まあ、彼女もたまには冒険したい時があるんだろう」
私は妻の懸念を軽く受け流しました。実際、その後妻の口からは玲子さんの服装に関する話題は聞かなくなりました。私もいつしか仕事の忙しさに紛れ、玲子
さんのことは頭から消えていきました。
私が妻の最初の変化に気づいたのはそれから暫くたっての休日のことです。ソファにすわって新聞を読んでいた私の前で、妻が洗濯物を畳もうとしてしゃがみ
こみました。
後ろを向いた妻のジーンズとシャツの間から大きく肌が露出し、白いレースの縁取りをしたパンティの上部までが丸見えになりました。私は驚いて新聞を置き
ます。
「おい……下着が見えているぞ」
「え?」
妻が振り向いて小首を傾げます。
「ああ……見えていてもいいのよ。そういうデザインなの」
妻は平然としています。
以前玲子さんがはいていたようなローライズのジーンズです。スタイルのよい玲子さんの場合はお洒落な感じがありますが、お尻の大きな妻がはいていると妙
な媚めかしさが先にたちます。
「外へもその格好で行くのか」
「おかしいかしら? みんなはいているわよ」
「渋谷あたりを歩いている若い娘だけだろう」
「そうかな?」
妻は自分の姿にそれほど抵抗がないようです。
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